永住許可制度の適正化について(令和6年入管法等改正法)

令和6年6月14日、第213回通常国会において「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律(令和6年法律第59号)」及び「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第60号)」が成立し、同月21日に公布されています。(公布の日から原則3年以内に施行となります。)

この記事では、各方面から注目されている法改正内容の一つ、永住許可制度の適正化(在留資格の取消し事由追加に関するもの)について、確認しておきたいと思います。次の画像は、出入国在留管理庁資料の説明資料となります。

永住許可制度の適正化について
出入国在留管理庁資料より抜粋 ⇒ https://www.moj.go.jp/isa/01_00461.html

永住ビザ・永住権の要件

「永住者」の在留資格は、一定の要件を満たすと認められる場合に許可される在留資格で、就労制限や在留期間に制限がないといった特徴があります。

永住ビザの要件は、別の記事で詳しく解説していますので、よかったらご参照ください。
⇒ 永住ビザ・永住権の要件

永住ビザには、ざっくりと以下の3つの要件があります。

永住ビザの3つの要件

①素行善良要件
②独立生計要件
③国益適合要件

これらの要件がちゃんと満たされていると認められたときに限り、永住ビザを取得することができます。ちゃんと日本の法令やルールを守って在留している人でなければ、永住ビザを取得することはできません。

永住ビザの問題点と制度適正化のための措置

共生社会の実現のためには、我が国に在留する外国人も、責任ある社会の構成員として、最低限必要なルールを守る必要があります。

この点、永住者については、永住許可後に在留期間の更新といった在留審査の手続がないため、一部において、永住許可を受けるためにまとめて公租公課の支払をするものの、永住許可後には、公租公課の支払をしないといった、永住許可制度の趣旨に反するような事例が起きています。

このような状況を容認すれば、適正に公的義務を履行する大多数の永住者や地域住民との間で不公平感を助長するなどのおそれがあり、今回の改正では、在留状況が良好と評価できない永住者に対し、適切な在留管理を行うための措置を設けて、永住許可制度の適正化を行うこととなっています。

具体的には、今回の法改正で、在留資格の取消し事由が追加されることになっています。次の画像は、上段が改正後、下段が現行の在留資格の取消条文です。

「この法律に規定する義務を遵守せず」とは 改正後入管法第22条の4第1項第8号

永住許可制度の適正化は、適正な出入国在留管理の観点から、永住許可後にその要件を満たさなくなった一部の悪質な者を対象としており、大多数の永住者を対象とするものではありません。

そのため、例えば、うっかり、在留カードを携帯しなかった場合や在留カードの有効期間の更新申請をしなかった場合に、在留資格を取り消すことは想定していません。

「故意に公租公課の支払をしないこと」とは 改正後入管法第22条の4第1項第8号

「公租公課」とは、租税のほか、社会保険料などの公的負担金のことを指しています。「故意に公租公課の支払をしないこと」とは、支払義務があることを認識しているにもかかわらず、あえて支払をしないことをいい、例えば、支払うべき公租公課があることを知っており、支払能力があるにもかかわらず、公租公課の支払をしない場合などが想定されています。

このような場合は、在留状況が良好とは評価されず、「永住者」の在留資格を認め続けることは相当ではないと判断されます。

他方で、病気や失業など、本人に帰責性があるとは認めがたく、やむを得ず公租公課の支払ができないような場合は、在留資格を取り消すことは想定されていません。

取消事由に該当するとしても、取消しなどするかどうかは、不払に至った経緯や督促等に対する永住者の対応状況など個別具体的な事情に応じて判断することとなります。

差押処分等により公租公課が充当された場合等について

永住許可制度の適正化は、在留状況が良好とは評価できない永住者に対し、法務大臣が適切な在留管理を行うことを目的としているため、滞納処分による差押え等により公租公課が徴収されたとしても、それによって、必ずしも在留資格の取消しなどの対象とならないというものではありません。

仮に取消事由に該当したとしても、実際に取消しなどするかどうかについては、適切な在留管理を行うという観点から判断され、個別の事案における公租公課の未納額、未納期間のほか、支払に応じたか否かなどの関係機関の措置への永住者の対応状況等も踏まえて判断することになります。

もし新設された取消事由に該当してしまったら?

出入国在留管理庁が公開しているQ&Aを読んだ感じでは、今回の今回の改正では、取消事由に該当してしまったとしても、直ちに在留資格が取り消しとなったり、すぐに出国しなければならないという訳ではないようです。

当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合(※)を除き、法務大臣が職権で永住者以外の在留資格への変更を許可することとしています。(※)「当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合」とは、例えば、今後も公租公課の支払をする意思がないことが明らかな場合や犯罪傾向が進んでいる場合を想定しています。
 
在留資格を変更する場合に、具体的にどのような在留資格とするかは、個々の外国人のその時の在留状況や活動状況によって、最適な在留資格を付与することになっているようで、多くの場合は「定住者」の在留資格が付与されることになるのだと思います。

在留資格変更後、再度、永住許可を受けることはできるのか?

今回の改正は、永住許可の申請手続を変更するものではないため、「定住者」などの在留資格に変更された場合であっても、その後、公的義務が適正に履行されていることなどが確認できれば、再度、永住許可を受けることが可能となっています。

まとめ

ここまで、令和6年入管法等改正法のうち、永住許可制度の適正化に関する部分について確認してきました。改正案が施行された後は、永住許可制度はより厳格に運用されるようになることが予想されますが、施行前ということもありまだ情報も少ない状況です。今後も最新情報をキャッチアップし、法改正にいち早く対応していきたいと思います。

最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました。


   

keyboard_arrow_up

09014331167 問い合わせバナー LINE相談予約